水路の底に墨が残り、新しく落とした墨が見えにくくなったので、最初は人力で拭いた。
拭いたら、めちゃくちゃ見えるようになった。
墨が残るかどうかで、こんなに変わるのか。次の模様を見せるには、使った墨を外へ出し続けないといけない。拭けば見えることはわかったけど、展示中ずっと人が拭くわけにもいかない。流れる水に運んでもらいたかった。
水面に広がる墨の模様。
水を増やせばいい、ではなかった
沈んだ墨を動かしたくて水を増やすと、排水が追いつかず濁ってしまう。試した範囲では水深を2〜3mm程度に抑えた方がよさそうだった。薄い水なら残った墨を流せることもある。ただ、送り込む量と同じだけ排水できなければ、その水深を保てない。
その薄い水に十分な流れを作るには、水路を細くすれば楽になる。当時のメモでは幅300mm、400mmと迷いながら、200〜250mmくらいに抑える案も考えていた。使う水も排水する量も減らせる。循環できるかまだわからない中では、都合がよかった。
ただ、見せたいものとしては細い。水と墨が横に広がる様子を見たいので、できれば500mmくらい欲しい。使う水を増やすには、やっぱり濾過して戻す仕組みが必要だった。
墨汁って何なんだ
水槽用の活性炭フィルターでは、墨を混ぜた水は黒いままだった。そこで調べて知ったのがコロイドだ。
墨汁は食塩のように水に溶けているわけではなく、煤などのとても細かい粒子が水の中に散らばっている。こうした小さな粒子が分散した状態を「コロイド」というらしい。見た目は一様でも、中には粒子がいる。
ただ、そんなことはこのとき調べるまで知らなかった。黒さのもとが粒子なら、取り除くにはその粒子を捕まえないといけない。しかも普通のろ紙も通り抜けるほど細かいという。フィルターなら何でも取れるわけじゃないのか。
調べると実験室みたいな話ばかり出てくる。水槽のフィルターでいけると思っていたのに、ずいぶん遠いところまで来てしまった。
粒子をまとめて取り除けないか
細かい粒子同士をまとめて、大きくしてから取り除く「凝集」も調べた。そのひとつが電気凝集。面白そうだったけど、水素ガスが発生するという説明を見て、知見のない自分が屋内展示で扱うのはやめようと判断した。
次はミョウバン。墨を混ぜた水に入れて2〜3時間待つ。
でも、期待していた変化はない。量や条件のせいかもしれないけど、この試験ではうまくいかなかった。
しかも少しとろみが出たように感じる。水を流したいのに、水にとろみをつけてどうする。
砂や石を何層か重ねる濾過も調べた。参考に見た動画では、水が少しずつ出てくる。
遅い。圧倒的に遅い。
きれいになっても、循環に追いつく速さで戻せなければ使えない。
スペックを見ても、決めきれない
そこで候補になったのが、細かな膜で濾過するUFメンブレンフィルター。見ていた製品の公称値は0.1μm程度。一方、当時調べた墨の粒径は0.08〜0.3μm程度だった。
数字だけなら小さい粒子は通ってしまいそうだ。ただ、手元の墨汁にも同じ数字が当てはまるのかはわからない。公称値を見て「これなら取れる」と判断していいのかも、自分にはわからなかった。さらに細かい粒子に対応するRO膜も調べたけど、装置が大がかりになりそうだった。
これでいける、とはまだ思えない。水路を細くして、水を交換する運用にするか。1時間に一回、いや30分かもしれない。
交換し続ける展示を想像するとやっぱり厳しい。それでも濾過できないなら、その方法で成立させるしかない。
通してみたら、透明だった
何度目かわからないYouTube検索で、家庭用浄水器を使って濾過する動画を見つけた。水がそれなりの速さで流れ、透明になって出てくる。
速攻買った。どうせならと気になっていた工業用のUFフィルターも買った。
フィルターとチューブ、継手を揃えたところ。
墨を混ぜて真っ黒にした水をフィルターへ。スペックへの疑いは残っていたけど、どちらからも見た目には透明な水が出てきた。ずっと難しそうに思えていたことが、目の前ではできている。
できた。
ポンプとフィルターをつないだ試験。
どちらも中空糸膜を使っていた。ただ、墨をどの程度取り除けたのかは測定していないし、なぜ取れたのかも絞れない。ここで確かめられたのは、手元の組み合わせで水が見た目に透明になったことだった。
それでも循環の目処は立った。戻した水の中で、次の墨の模様を見せられそうだ。透明でも粒子が完全になくなったとは限らないし、長時間使えば状態は変わる。その確認は残るけど、少なくとも水を捨て続ける以外の道ができた。
じゃあ、500mmにできる
濾過して戻せるなら、もう少し水を使える。だったら水路も広げられる。最終的に500mm×1000mmにすることにした。
ようやく、作りたかった大きさにできる。
ただ、循環できることと、その幅に十分な水を流せることは別の話だった。幅を広げると水量が足りず、チューブも細い。次はポンプと配管を調整することになる。